木曜日の朝。雨。電車内にて。

私の隣に座っている潔癖そうな雰囲気の男の肩が触れた。すぐに離れるかと思ったが、離れずむしろ重みがましてくる。ああ、寝てるんだなと思った。木曜日の朝。人々はどんな気持ちで体調でこの電車に乗っているのかと考えた。その憂鬱さと疲弊を思った。男はハッとしては定位置にもどり、少し経つとまた寄りかかってきた。マスク越しにしばらく洗っていない衣類の臭いがした。私は潔癖ではないが、他人と触れ合うのはひどく嫌だ。誰でもそうなのかも知れないけれど。でもこの男には肩、正確には二の腕の部分だが、を貸してやるのもやぶさかではないと思った。男が黒髪で黒縁メガネを掛けていて紺色のダウンジャケットを着ていたからかもしれない。オレンジ色のダウンジャケットだったら違っただろう。

こんな出来事は明日になれば忘れてしまうんだろう。無駄な記憶なのかもしれない。でも無駄なものは無駄なものとして存在し続けてもいいんじゃないかと私は思う。木曜日の朝。雨。電車内にて。